第9回講義 頻出テーマ学習(各論編) 〔補講〕環境と科学の倫理 【解説①】「『地球環境問題』の問題」について考える

≪Web版特別講義≫
[補講] 環境と科学の倫理


【解説①】「『地球環境問題』の問題」について考える

地球環境問題は,ここ20年くらいの一番ホットな出題テーマでした。入試問題でも,最頻出事項だったかもしれません。「ホットな出題テーマだった」と過去形で述べましたが,環境問題自体の事実はどうあれ,入試問題のテーマとしては,まだまだ出題されています。受験生としては,考えておかなければならないテーマのようです。

実際,マスメディア(新聞・テレビ)だけでなく,インターネットや各種月刊誌,新書などの情報をチェックしている受験生の皆さんにとっては,説明する必要もないかもしれませんが,地球温暖化などの環境問題のメイン・テーマが,実は誤った前提のうえに立てられている疑似科学(の問題)であるとの批判や,環境政策の政治性や欺瞞性への批判は,少しずつ高まってきているようです。また,多くの日本人にとっては,環境問題よりも景気対策や経済格差の問題が,目下の優先事項になってしまっている現状もあります。しかし,この問題があらゆる意味において,考えるべき重要問題であることは間違いありません。

「『環境問題』の問題」の一番の問題性は,自ら確かめる手段や知識が圧倒的に乏しい状況において,ある態度決定が迫られる時にはどうすべきか,ということの困難さです。先に述べたように,インターネットやテレビ・新聞以外のメディアでは,けっこう広範囲の「環境問題批判」が見られるようになってきています。一方で,マスコミや学校では,あいかわらずのエコ・ブームの流れに掉さす言説に溢れており,知に忠実でありたい人であればなおさら,いったい何が正しくて,何が正しくないかがわからなくなっているのが現状だと思います。

第1次データの採取の仕方,その加工・分析の仕方,分析結果の評価・修正の仕方,結果から行動指針を引き出すやり方。…このどれをとっても,専門外の一個人では,わからないことばかりです。1970年代には,「地球寒冷化」が問題とされていたこともあります。実際に現在でも,長期的なスパンでは地球が温暖化するかどうかはわからないとする科学者も少なからずおります。また,温室効果ガスが「温室効果」を持つことは事実であっても,ガスの増加が温暖化の主原因ではないとする議論もあります。そういった議論は,因果関係が逆である可能性(つまり温暖化した結果として温室効果ガスが増えているにすぎない)を指摘しています。…こんなことをいろいろいわれても,素人にはなにが正しい言説なのか,判断することはほとんど不可能に近い所業です。

それでは,科学者の間でも意見が分かれる環境問題へのアプローチを,わたしたちはどのように考えていけばよいのでしょうか。

一つのヒントとして,「予防原則」という考え方があります。この考え方は,未来予測が不確定であっても,壊滅的あるいは回復不可能なダメージの可能性が少しでもある場合には,予防的措置を講じるのが賢明であるとする考え方です。これに基づくならば,地球温暖化への対策は,もし温暖化が実際には起らなかったとしても,温暖化によって生じる被害の可能性が甚大であるならば(そのような予想が成り立つならば),それに備えて対策を打つべきだということになります。

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環境問題は,科学問題であると同時に,いやそれ以上に政治の問題でもあります。環境問題をめぐって,各国,大企業は,それぞれのレースを始めています。日本は,そのレースに乗り遅れた感があります。「科学的に完全な正解が得られていないから…」という論理は通用しません。この問題は,このように実に複雑で,政治的色彩を帯びており,科学的にも,経済学的にも,唯一の解が存在しない難しい問題です。したがって,この問題を考えるにあたっては,「~であった場合」という限定を設けて,確実に議論できるところから思考を展開していかなければなりません。

補足コメント:
メディアの問題については,本誌もしくはWeb講義上で,近いうちに意見を述べるつもりですが,環境問題との関連で少しだけ触れておきましょう。社会人や大学院生になるまでは,(とりわけ高校生くらいまでの年代のみなさんは),失礼な言い方かもしれませんが,メディア(とりわけマスメディア)に考え方や意見を支配されやすい年代だと思います。情報源がテレビ・新聞・学校の授業に限られており,メディアが伝えない情報を取り入れたり,メディアを批判的に分析したりするやり方を習得していないから,それは仕方ないことです。メディアの呪縛・支配から抜け出すには,数年間の意識的で反省的な訓練を地道に続ける必要があり,沢山の読書量や指導者とのディスカッションや思考・記述する作業が必要です。(私自身,メディアの定型的な言葉使いをそのまま受け入れてしまったりすることも,まだまだあるような気がしますし,修行が足りないと痛感することも多々あります)。だからこそ,メディアの情報や言説を意識的に疑う習慣が大切だと思います。


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