医歯薬進学2011年4月号より、新しい連載がスタートしました。
新連載用のサイトはただいま準備中です。いましばらくお待ちください。
エコール麹町メディカル
--
4/13 追記
「月刊 医歯薬進学」(玄文社)の新連載誌上講義「本格派のための小論文・面接の新技術」のサイト(Blogger)を公開しました。
こちらです。
http://hharada-ekm-2011.blogspot.com/
エコール麹町メディカル
エコール麹町メディカル 原田広幸の誌上講義 「わかる!使える!小論文・面接のルールと技術100」
第10回講義 【解答例②】契約を無効とする立場1(スターン夫妻の養育権を認めない立場)
≪Web版特別講義≫
【問題文】 「代理母」の問題を素材に考える
【問題文】 「代理母」の問題を素材に考える
私は,代理母の契約時においての同意の不十分さを理由に,
まず,第一に契約時のメアリー・ベスには十分な情報がなく、
次に,彼女にとっては、生活が苦しい中での1万ドルは、
自分が置かれている立場をきちんと理解していることが契約の成立
したがって,以上の理由により,契約は無効とすべきであって,
-----
医学部受験専門予備校
エコール麹町メディカル 原田広幸の誌上講義
「「わかる!使える!小論文・面接のルール と技術100」
第10回講義 【解答例①】契約履行を支持する立場(スターン夫妻の養育権を認める立場)
≪Web版特別講義≫
【問題文】 「代理母」の問題を素材に考える
【問題文】 「代理母」の問題を素材に考える
【解答例①】契約履行を支持する立場(スターン夫妻の養育権を認める立場)
私は契約の遵守と子の福祉という観点からスターン夫妻の養育権を認める考え方を支持する。
まず,そもそも契約順守という規範は,その契約がいちじるしく不合理なものであったり,不利益をもたらすようなものでなければ,どのような場面においても守られるべきである。そして,この契約順守の考え方が認められるならば,この代理母契約の有効性は、自由主義の観点から導き出すことができる。自由主義の考え方によれば、他人に危害を加えない限り何をする自由も妨げられないから、契約の履行によって誰にも危害が及ばない本契約は有効であり、メアリー・ベスは,約束通り産んだ子の養育権を放棄しなければならない。
また,子の福祉という観点からも,本契約の履行は支持することができる。メアリー・ベスは,家計の安定していない状況において,金銭的なメリットを得ることを目的として代理母契約を結んだのであり,一方のスターン夫妻は遺伝的つながりのある子を持ちたいがために契約を結んだ。したがって,子にとっては,もともと子を望んでいたスターン夫妻のもとで養育されるのが子のためになり,また経済的にも恵まれているスターン夫妻の方が子に有益な養育を与えることができると考えられる。
たしかに,妊娠や出産という行為は神聖で尊厳に値するものである。そして,そのことを根拠として,代理母契約自体を不正な行為とみなす反論が想定できる。しかし,神聖で尊厳に値するということから、契約や売買の対象にしてはいけないということにはならない。この契約によって、スターン夫妻は遺伝的につながりのある子を手に入れ、メアリー・ベスは1万ドルという対価を手に入れる。したがって,契約時に強制などの圧力が無かったと考えるならば,この契約は双方にとってデメリットのないものであり,正当な契約であると考えるべきである。(762)
-----
医学部受験専門予備校
エコール麹町メディカル 原田広幸の誌上講義
「「わかる!使える!小論文・面接のルール と技術100」
第10回講義 【問題文】「代理母」の問題を素材に考える
第10回講義 頻出テーマ学習(各論編) 自由と正義の問題
(本誌上講義は月刊医歯薬進学2011年1月号に初出)
(本誌上講義は月刊医歯薬進学2011年1月号に初出)
≪Web版特別講義≫
【問題文】 「代理母」の問題を素材に考える
--------------
問題:以下の文章を読み、以下の問いに答えよ。
アメリカ・ニュージャージー州のスターン夫妻は、自分たちの子をほしがっていた。夫のビルは生化学者、妻のベティは小児科医で、ともに38歳。典型的な裕福なエリート夫婦であった。しかし、ベティの病気のため自然な妊娠をあきらめて、夫婦は代理母をあっせんするニューヨークの不妊症センターを訪ねた。
センターの紹介により、スターン夫妻は、ニュージャージー州の26歳の主婦、メアリー・ベス・ホワイトヘッドと代理母契約を結んだ。
メアリー・ベスには、すでに二人の子供がいた。ホワイトヘッド夫妻は、スターン夫妻と異なり、高等教育を受けたことがない。夫は清掃作業員だった。家計は安定しておらず、夫妻は自己破産していた。メアリー・ベスが代理母の広告に応募したのは、その破産申請の数ヵ月後であった。
ホワイトヘッド夫妻とスターン夫妻の間の代理母契約は、1985年2月に交わされている。メアリー・ベスへの報酬は1万ドルで、生まれた子を引き渡し、養子契約書に署名した後に支払われることになっていた。センターへのあっせん料は7500ドルであった。
メアリー・ベスが妊娠したのは、人工授精が9回目になってからである。そして、1986年3月、女の赤ちゃんが生まれた。この子が「ベビーМ」と呼ばれることになる。
メアリー・ベスは、赤ちゃんを出産する直前から、代理母を引き受けたことは、間違いだったと考えるようになっていた。赤ちゃんは他人に渡すことはできない、自分で育てることにしたい。こうしてメアリー・ベスは1万ドルの受取りと養子契約書への署名を拒否する。生まれた子は、ホワイトヘッド夫妻の実子として出生登録がされた。
といっても、メアリー・ベスは産院から退院すると、いったんは依頼人のスターン夫妻に子を引き渡している。だが、すぐに後悔の念にとらわれ、翌朝には、スターン夫妻のもとを訪れ、赤ちゃんを自分の手に取り戻したのである。自殺をほのめかすメアリー・ベスには赤ちゃんを一時的に渡すしかない、そうスターン夫妻が判断したからだ。しかし、それ以降、メアリー・ベスは赤ちゃんを手放そうとはしなかった。こうして、スターン夫妻が代理母契約を根拠に子の引き渡しを求めて、裁判を起こすことになった。
メアリー・ベスはフロリダ州に逃亡した。警察がメアリー・ベスを発見し、赤ちゃんはスターン夫妻に引き渡されたが、養育権をめぐる争いは、ニュージャージー州の裁判所に持ち込まれた。
(香川知晶『いのちは誰のものか』2009年・ディスカバー携書より、一部改変)
--------------
問:下線部に対するあなたの判断を根拠とともに答えなさい。ただし、実際の法律の知識や解釈にとらわれる必要はない。
--------------
【解説】この問題は、1980年代にアメリカで議論を巻き起こした「ベビーM事件」と呼ばれるケースで、自由な市場における自由な契約は、どこまで有効なのかというテーマに関するものです。また、何を(誰を)どのように扱うのが正しいのかという、「正義」に関する問題にもなっています。
さて、この争いは,どちらが正しいと考えられるでしょうか。こういったタイプの問題は、争っているどちら側の人物により共感できるかという単なる感情の問題になりがちですから、それぞれの立場を支持する根拠、あるいは支持できない理由を出来るだけ考えて、それぞれの根拠の重要性をハカリにかけることが大切です。
-----
医学部受験専門予備校
エコール麹町メディカル 原田広幸の誌上講義
「「わかる!使える!小論文・面接のルール と技術100」
第10回講義 頻出テーマ学習(各論編) 自由と正義の問題
第9回 頻出テーマ学習(各論編) 〔補講〕環境と科学の倫理 【解説②】地球環境問題とは何か
≪Web版特別講義≫
〔補講〕 環境と科学の倫理
【解説②】 地球環境問題とは何か
実際の問題にあたる前に,基本的な知識を確認しておきましょう。地球環境問題とは何か,いま,どのようなことが問題となっており,どのような意見が出されているのでしょうか。地球環境問題を抽象的に論じると,感情論や精神論に陥ること必至です。冷静かつ具体的に論じるには,地球環境問題について,世の中ではどのようなことが言われているかを知っておくことが大切です。
まず,地球環境問題とは何でしょうか。人間の経済活動を主な原因として生じる,全地球的な自然破壊・汚染の問題と定義しておきましょう。この問題群は,かつて日本において1970年代に生じた「公害」問題とは異なることに注意してください。公害問題は,自然環境の問題には違いありませんが,水俣病などの判例を見ても明らかなように,責任の主体が明確で(チッソという企業,あるいは規制を疎かにした政府),被害の範囲も地域限定的です。
一方,地球環境問題は,責任の主体も明確でなく(経済活動を行なっている人類全員が責任者になっているとも言える),被害も一地域にとどまらず,全地球に広がっており,その被害は数世代あとの人類にも及びます。
さて,地球環境問題には,酸性雨,オゾン層破壊,土壌汚染や大気汚染の問題などさまざまなものがありますが,もっとも典型的かつ深刻と考えられているのが,地球温暖化(global warming)問題です。温暖化が進むと,海水面の上昇や異常気象,洪水・砂漠化,有用な動植物の減少など,人間の生存に深刻な影響を与えると言われています。
地球温暖化の主な原因は,温室効果ガスと呼ばれる(greenhouse effect gas:二酸化炭素やメタンなど)温暖化物質の排出だと考えられており,多くの科学者や政策担当者もそう信じています。二酸化炭素は,人間の経済活動,おもに工業生産や交通において排出され,工業化がすでに終わった国や工業化が進行中の国において大量に排出されています。また,農業においてもメタンガスなどの温室効果ガスが発生しています。このように,温室効果ガスは,人間が経済活動を行なうにあたって必然的に排出されるものであり,経済活動のあり方を変えることなしに,温室効果ガスの排出を減らすことは不可能と考えられています。
1997年に締結され,2005年にようやく発効した「京都議定書」(正式名称は「気候変動に関する国際連合枠組条約京都議定書」)では,各国の温室効果ガスの削減目標が初めて国際的な約束事として取りきめられました。しかし,全世界での二酸化炭素排出量の4分の1を占めるアメリカの不参加,中国やインドなど工業化途上国に削減義務がないことなど,さまざまな問題があり,地球温暖化への包括的な取り組みとしては,まだまだ課題が山積している状況です。
-----
医学部受験専門予備校
エコール麹町メディカル 原田広幸の誌上講義
「「わかる!使える!小論文・面接のルール と技術100」
〔補講〕 環境と科学の倫理
【解説②】 地球環境問題とは何か
実際の問題にあたる前に,基本的な知識を確認しておきましょう。地球環境問題とは何か,いま,どのようなことが問題となっており,どのような意見が出されているのでしょうか。地球環境問題を抽象的に論じると,感情論や精神論に陥ること必至です。冷静かつ具体的に論じるには,地球環境問題について,世の中ではどのようなことが言われているかを知っておくことが大切です。
まず,地球環境問題とは何でしょうか。人間の経済活動を主な原因として生じる,全地球的な自然破壊・汚染の問題と定義しておきましょう。この問題群は,かつて日本において1970年代に生じた「公害」問題とは異なることに注意してください。公害問題は,自然環境の問題には違いありませんが,水俣病などの判例を見ても明らかなように,責任の主体が明確で(チッソという企業,あるいは規制を疎かにした政府),被害の範囲も地域限定的です。
一方,地球環境問題は,責任の主体も明確でなく(経済活動を行なっている人類全員が責任者になっているとも言える),被害も一地域にとどまらず,全地球に広がっており,その被害は数世代あとの人類にも及びます。
さて,地球環境問題には,酸性雨,オゾン層破壊,土壌汚染や大気汚染の問題などさまざまなものがありますが,もっとも典型的かつ深刻と考えられているのが,地球温暖化(global warming)問題です。温暖化が進むと,海水面の上昇や異常気象,洪水・砂漠化,有用な動植物の減少など,人間の生存に深刻な影響を与えると言われています。
地球温暖化の主な原因は,温室効果ガスと呼ばれる(greenhouse effect gas:二酸化炭素やメタンなど)温暖化物質の排出だと考えられており,多くの科学者や政策担当者もそう信じています。二酸化炭素は,人間の経済活動,おもに工業生産や交通において排出され,工業化がすでに終わった国や工業化が進行中の国において大量に排出されています。また,農業においてもメタンガスなどの温室効果ガスが発生しています。このように,温室効果ガスは,人間が経済活動を行なうにあたって必然的に排出されるものであり,経済活動のあり方を変えることなしに,温室効果ガスの排出を減らすことは不可能と考えられています。
1997年に締結され,2005年にようやく発効した「京都議定書」(正式名称は「気候変動に関する国際連合枠組条約京都議定書」)では,各国の温室効果ガスの削減目標が初めて国際的な約束事として取りきめられました。しかし,全世界での二酸化炭素排出量の4分の1を占めるアメリカの不参加,中国やインドなど工業化途上国に削減義務がないことなど,さまざまな問題があり,地球温暖化への包括的な取り組みとしては,まだまだ課題が山積している状況です。
-----
医学部受験専門予備校
エコール麹町メディカル 原田広幸の誌上講義
「「わかる!使える!小論文・面接のルール と技術100」
第9回講義 頻出テーマ学習(各論編) 〔補講〕環境と科学の倫理 【解説①】「『地球環境問題』の問題」について考える
≪Web版特別講義≫
[補講] 環境と科学の倫理
【解説①】「『地球環境問題』の問題」について考える
地球環境問題は,ここ20年くらいの一番ホットな出題テーマでした。入試問題でも,最頻出事項だったかもしれません。「ホットな出題テーマだった」と過去形で述べましたが,環境問題自体の事実はどうあれ,入試問題のテーマとしては,まだまだ出題されています。受験生としては,考えておかなければならないテーマのようです。
実際,マスメディア(新聞・テレビ)だけでなく,インターネットや各種月刊誌,新書などの情報をチェックしている受験生の皆さんにとっては,説明する必要もないかもしれませんが,地球温暖化などの環境問題のメイン・テーマが,実は誤った前提のうえに立てられている疑似科学(の問題)であるとの批判や,環境政策の政治性や欺瞞性への批判は,少しずつ高まってきているようです。また,多くの日本人にとっては,環境問題よりも景気対策や経済格差の問題が,目下の優先事項になってしまっている現状もあります。しかし,この問題があらゆる意味において,考えるべき重要問題であることは間違いありません。
「『環境問題』の問題」の一番の問題性は,自ら確かめる手段や知識が圧倒的に乏しい状況において,ある態度決定が迫られる時にはどうすべきか,ということの困難さです。先に述べたように,インターネットやテレビ・新聞以外のメディアでは,けっこう広範囲の「環境問題批判」が見られるようになってきています。一方で,マスコミや学校では,あいかわらずのエコ・ブームの流れに掉さす言説に溢れており,知に忠実でありたい人であればなおさら,いったい何が正しくて,何が正しくないかがわからなくなっているのが現状だと思います。
第1次データの採取の仕方,その加工・分析の仕方,分析結果の評価・修正の仕方,結果から行動指針を引き出すやり方。…このどれをとっても,専門外の一個人では,わからないことばかりです。1970年代には,「地球寒冷化」が問題とされていたこともあります。実際に現在でも,長期的なスパンでは地球が温暖化するかどうかはわからないとする科学者も少なからずおります。また,温室効果ガスが「温室効果」を持つことは事実であっても,ガスの増加が温暖化の主原因ではないとする議論もあります。そういった議論は,因果関係が逆である可能性(つまり温暖化した結果として温室効果ガスが増えているにすぎない)を指摘しています。…こんなことをいろいろいわれても,素人にはなにが正しい言説なのか,判断することはほとんど不可能に近い所業です。
それでは,科学者の間でも意見が分かれる環境問題へのアプローチを,わたしたちはどのように考えていけばよいのでしょうか。
一つのヒントとして,「予防原則」という考え方があります。この考え方は,未来予測が不確定であっても,壊滅的あるいは回復不可能なダメージの可能性が少しでもある場合には,予防的措置を講じるのが賢明であるとする考え方です。これに基づくならば,地球温暖化への対策は,もし温暖化が実際には起らなかったとしても,温暖化によって生じる被害の可能性が甚大であるならば(そのような予想が成り立つならば),それに備えて対策を打つべきだということになります。
***
環境問題は,科学問題であると同時に,いやそれ以上に政治の問題でもあります。環境問題をめぐって,各国,大企業は,それぞれのレースを始めています。日本は,そのレースに乗り遅れた感があります。「科学的に完全な正解が得られていないから…」という論理は通用しません。この問題は,このように実に複雑で,政治的色彩を帯びており,科学的にも,経済学的にも,唯一の解が存在しない難しい問題です。したがって,この問題を考えるにあたっては,「~であった場合」という限定を設けて,確実に議論できるところから思考を展開していかなければなりません。
補足コメント:
メディアの問題については,本誌もしくはWeb講義上で,近いうちに意見を述べるつもりですが,環境問題との関連で少しだけ触れておきましょう。社会人や大学院生になるまでは,(とりわけ高校生くらいまでの年代のみなさんは),失礼な言い方かもしれませんが,メディア(とりわけマスメディア)に考え方や意見を支配されやすい年代だと思います。情報源がテレビ・新聞・学校の授業に限られており,メディアが伝えない情報を取り入れたり,メディアを批判的に分析したりするやり方を習得していないから,それは仕方ないことです。メディアの呪縛・支配から抜け出すには,数年間の意識的で反省的な訓練を地道に続ける必要があり,沢山の読書量や指導者とのディスカッションや思考・記述する作業が必要です。(私自身,メディアの定型的な言葉使いをそのまま受け入れてしまったりすることも,まだまだあるような気がしますし,修行が足りないと痛感することも多々あります)。だからこそ,メディアの情報や言説を意識的に疑う習慣が大切だと思います。
-----
医学部受験専門予備校
エコール麹町メディカル 原田広幸の誌上講義
「「わかる!使える!小論文・面接のルール と技術100」
[補講] 環境と科学の倫理
【解説①】「『地球環境問題』の問題」について考える
地球環境問題は,ここ20年くらいの一番ホットな出題テーマでした。入試問題でも,最頻出事項だったかもしれません。「ホットな出題テーマだった」と過去形で述べましたが,環境問題自体の事実はどうあれ,入試問題のテーマとしては,まだまだ出題されています。受験生としては,考えておかなければならないテーマのようです。
実際,マスメディア(新聞・テレビ)だけでなく,インターネットや各種月刊誌,新書などの情報をチェックしている受験生の皆さんにとっては,説明する必要もないかもしれませんが,地球温暖化などの環境問題のメイン・テーマが,実は誤った前提のうえに立てられている疑似科学(の問題)であるとの批判や,環境政策の政治性や欺瞞性への批判は,少しずつ高まってきているようです。また,多くの日本人にとっては,環境問題よりも景気対策や経済格差の問題が,目下の優先事項になってしまっている現状もあります。しかし,この問題があらゆる意味において,考えるべき重要問題であることは間違いありません。
「『環境問題』の問題」の一番の問題性は,自ら確かめる手段や知識が圧倒的に乏しい状況において,ある態度決定が迫られる時にはどうすべきか,ということの困難さです。先に述べたように,インターネットやテレビ・新聞以外のメディアでは,けっこう広範囲の「環境問題批判」が見られるようになってきています。一方で,マスコミや学校では,あいかわらずのエコ・ブームの流れに掉さす言説に溢れており,知に忠実でありたい人であればなおさら,いったい何が正しくて,何が正しくないかがわからなくなっているのが現状だと思います。
第1次データの採取の仕方,その加工・分析の仕方,分析結果の評価・修正の仕方,結果から行動指針を引き出すやり方。…このどれをとっても,専門外の一個人では,わからないことばかりです。1970年代には,「地球寒冷化」が問題とされていたこともあります。実際に現在でも,長期的なスパンでは地球が温暖化するかどうかはわからないとする科学者も少なからずおります。また,温室効果ガスが「温室効果」を持つことは事実であっても,ガスの増加が温暖化の主原因ではないとする議論もあります。そういった議論は,因果関係が逆である可能性(つまり温暖化した結果として温室効果ガスが増えているにすぎない)を指摘しています。…こんなことをいろいろいわれても,素人にはなにが正しい言説なのか,判断することはほとんど不可能に近い所業です。
それでは,科学者の間でも意見が分かれる環境問題へのアプローチを,わたしたちはどのように考えていけばよいのでしょうか。
一つのヒントとして,「予防原則」という考え方があります。この考え方は,未来予測が不確定であっても,壊滅的あるいは回復不可能なダメージの可能性が少しでもある場合には,予防的措置を講じるのが賢明であるとする考え方です。これに基づくならば,地球温暖化への対策は,もし温暖化が実際には起らなかったとしても,温暖化によって生じる被害の可能性が甚大であるならば(そのような予想が成り立つならば),それに備えて対策を打つべきだということになります。
***
環境問題は,科学問題であると同時に,いやそれ以上に政治の問題でもあります。環境問題をめぐって,各国,大企業は,それぞれのレースを始めています。日本は,そのレースに乗り遅れた感があります。「科学的に完全な正解が得られていないから…」という論理は通用しません。この問題は,このように実に複雑で,政治的色彩を帯びており,科学的にも,経済学的にも,唯一の解が存在しない難しい問題です。したがって,この問題を考えるにあたっては,「~であった場合」という限定を設けて,確実に議論できるところから思考を展開していかなければなりません。
補足コメント:
メディアの問題については,本誌もしくはWeb講義上で,近いうちに意見を述べるつもりですが,環境問題との関連で少しだけ触れておきましょう。社会人や大学院生になるまでは,(とりわけ高校生くらいまでの年代のみなさんは),失礼な言い方かもしれませんが,メディア(とりわけマスメディア)に考え方や意見を支配されやすい年代だと思います。情報源がテレビ・新聞・学校の授業に限られており,メディアが伝えない情報を取り入れたり,メディアを批判的に分析したりするやり方を習得していないから,それは仕方ないことです。メディアの呪縛・支配から抜け出すには,数年間の意識的で反省的な訓練を地道に続ける必要があり,沢山の読書量や指導者とのディスカッションや思考・記述する作業が必要です。(私自身,メディアの定型的な言葉使いをそのまま受け入れてしまったりすることも,まだまだあるような気がしますし,修行が足りないと痛感することも多々あります)。だからこそ,メディアの情報や言説を意識的に疑う習慣が大切だと思います。
-----
医学部受験専門予備校
エコール麹町メディカル 原田広幸の誌上講義
「「わかる!使える!小論文・面接のルール と技術100」
第9回講義 頻出テーマ学習(各論編) 環境と科学の倫理
第8回講義 医療倫理のテーマ学習(各論編) 生命倫理②
第7回講義 医療倫理のテーマ学習(1) (各論編) 【Web版特別付録】医学部受験のための時事ネタファイル① 体外受精(IVF)
医学部受験のための時事ネタファイル① 体外受精(IVF)
2010年に起こった新しい事件やニュースについては,やはり主要なものを押さえておく必要があるでしょう。イギリスのロバート・エドワーズさん(ケンブリッジ大名誉教授)が「体外受精技術の開発」により,ノーベル生理学賞を受賞し,そのことにバチカン(ローマ法王庁:ローマ・カトリックの総本山)が不快感を表明したことは,覚えておいてください。
□ 体外受精 in vitro fertilization(IVF):
採取した精子と卵子を体外で受精させてから子宮に戻す受精方法。女性の卵巣から卵子を摘出し,試験管内で精子と結合させ,女性の子宮に戻す。通常は,人工受精できない場合に行われることが多い。最初の体外受精によって生まれた赤ちゃんは試験管ベビー(Super babe)と言われた。(⇒『月刊・医歯薬進学』2010年10月号誌上講義「医療倫理のテーマ学習 ①(各論編)」を参照ください。)
↑最初の試験管ベビー(Superbabe)の新聞記事
↑いまではごく普通のことになってしまった。
参考:【ニュース記事】体外受精の開発にノーベル医学生理学賞 英の名誉教授
スウェーデンのカロリンスカ医科大は4日、今年のノーベル医学生理学賞を、ロバート・エドワーズ英ケンブリッジ大名誉教授(85)に贈ると発表した。授賞理由は「体外受精技術の開発」。1978年に世界初の体外受精児を誕生させ、技術の発展に尽力した功績が認められた。
体外受精は、女性の卵巣から卵子を取り出し、精子を加えてできた受精卵(胚〈はい〉)を、子宮に戻す技術。エドワーズ博士は英国で、産婦人科医のパトリック・ステプトー氏(故人)と共に、ルイーズ・ブラウンさんを体外受精で誕生させた。
体外受精によって、世界でこれまでに計400万人が誕生している。日本産科婦人科学会によると、国内では年間約2万人が生まれている。この技術は、不妊 に悩む夫婦に希望を与える一方で、遺伝的に自分と同じ人間を作るクローン、第三者の子宮を借りた代理出産、病気の子どもが生まれることを避けるための着床 前診断など、倫理的な課題を抱える医療技術を可能にする出発点にもなった。
賞金は1千万スウェーデンクローナ(約1億2千万円)。授賞式は12月10日、ストックホルムである。 (ソース:Asahi.com 10月4日)
参考:【ニュース記事】バチカン、体外受精技術へのノーベル賞に不快感
ローマ法王庁(バチカン)は4日、今年のノーベル医学生理学賞が世界初の体外受精児を誕生させたロバート・エドワーズ英ケンブリッジ大名誉教授(85)に決まったことについて不快感を示した。ANSA通信が伝えた。
バチカンで生命倫理問題を担当する生命アカデミーのパウラ委員長は「エドワーズ教授を選んだことは不適当である」と批判。コロンボ委員も「深刻な道徳的疑問を引き起こす」と懸念を表明した。
バチカンは、受精卵の段階で人間とみなす考え方をとっており、受精卵の中から最適なものを選んで子宮に戻し、残りを捨てる体外受精に対して反対の立場を示している。
(ソース:Asahi.com 10月5日)
-----
医学部受験専門予備校
エコール麹町メディカル 原田広幸の誌上講義
「「わかる!使える!小論文・面接のルール と技術100」
2010年に起こった新しい事件やニュースについては,やはり主要なものを押さえておく必要があるでしょう。イギリスのロバート・エドワーズさん(ケンブリッジ大名誉教授)が「体外受精技術の開発」により,ノーベル生理学賞を受賞し,そのことにバチカン(ローマ法王庁:ローマ・カトリックの総本山)が不快感を表明したことは,覚えておいてください。
□ 体外受精 in vitro fertilization(IVF):
採取した精子と卵子を体外で受精させてから子宮に戻す受精方法。女性の卵巣から卵子を摘出し,試験管内で精子と結合させ,女性の子宮に戻す。通常は,人工受精できない場合に行われることが多い。最初の体外受精によって生まれた赤ちゃんは試験管ベビー(Super babe)と言われた。(⇒『月刊・医歯薬進学』2010年10月号誌上講義「医療倫理のテーマ学習 ①(各論編)」を参照ください。)
↑最初の試験管ベビー(Superbabe)の新聞記事
↑いまではごく普通のことになってしまった。
参考:【ニュース記事】体外受精の開発にノーベル医学生理学賞 英の名誉教授
スウェーデンのカロリンスカ医科大は4日、今年のノーベル医学生理学賞を、ロバート・エドワーズ英ケンブリッジ大名誉教授(85)に贈ると発表した。授賞理由は「体外受精技術の開発」。1978年に世界初の体外受精児を誕生させ、技術の発展に尽力した功績が認められた。
体外受精は、女性の卵巣から卵子を取り出し、精子を加えてできた受精卵(胚〈はい〉)を、子宮に戻す技術。エドワーズ博士は英国で、産婦人科医のパトリック・ステプトー氏(故人)と共に、ルイーズ・ブラウンさんを体外受精で誕生させた。
体外受精によって、世界でこれまでに計400万人が誕生している。日本産科婦人科学会によると、国内では年間約2万人が生まれている。この技術は、不妊 に悩む夫婦に希望を与える一方で、遺伝的に自分と同じ人間を作るクローン、第三者の子宮を借りた代理出産、病気の子どもが生まれることを避けるための着床 前診断など、倫理的な課題を抱える医療技術を可能にする出発点にもなった。
賞金は1千万スウェーデンクローナ(約1億2千万円)。授賞式は12月10日、ストックホルムである。 (ソース:Asahi.com 10月4日)
参考:【ニュース記事】バチカン、体外受精技術へのノーベル賞に不快感
ローマ法王庁(バチカン)は4日、今年のノーベル医学生理学賞が世界初の体外受精児を誕生させたロバート・エドワーズ英ケンブリッジ大名誉教授(85)に決まったことについて不快感を示した。ANSA通信が伝えた。
バチカンで生命倫理問題を担当する生命アカデミーのパウラ委員長は「エドワーズ教授を選んだことは不適当である」と批判。コロンボ委員も「深刻な道徳的疑問を引き起こす」と懸念を表明した。
バチカンは、受精卵の段階で人間とみなす考え方をとっており、受精卵の中から最適なものを選んで子宮に戻し、残りを捨てる体外受精に対して反対の立場を示している。
(ソース:Asahi.com 10月5日)
-----
医学部受験専門予備校
エコール麹町メディカル 原田広幸の誌上講義
「「わかる!使える!小論文・面接のルール と技術100」
第7回講義 医療倫理のテーマ学習(1) (各論編)
第6回講義 多様なテーマへのアプローチ(総論編)
第5回講義 入学願書の書き方/面接準備と対策
第4回講義 論文のアウトラインの作成法/死刑存廃問題
第3回講義 誤謬推理について学ぶ/安楽死の問題
第2回講義 小論文答案作成の基礎/生命倫理学の基礎
第1回講義 だれも教えなかった「小論文試験」「面接試験」
(本誌上講義は月刊医歯薬進学2010年4月号に初出)
◆ 今回の講義の主な対象者:医歯薬学部受験者全員(推薦・AO・一般・編入)【共通】
こんにちは、エコール麹町メディカルの原田です。今月号より入試直前期まで、医歯薬学部入試のための「二次試験ミニマム対策」を連載します。どうぞよろしくお願いいたします。
さて、医学部等の二次試験においては、小論文試験と面接が課される大学がほとんどですが、その中身は多岐にわたります。多くの受験生にとっては、センター試験や学科試験の勉強だけで精いっぱい、小論文や面接の対策などやっている暇などないというのが実情でしょう。あるいは、あまりに多様で傾向の読めない二次試験の対策など、そもそもやっても意味がないと、最初から勉強を放棄している受験生さえいるかもしれません。
しかし、多くの大学の試験において、二次試験の成績は極めて重視されています。また、準備・対策を行なった受験生と、行なっていない受験生の間で大きな差が出てきてしまうのも事実です。ですから、十分な余裕を持って準備を行なうことはきわめて重要です。私の指導経験からいえば、半年の対策期間があれば十分な効果が得られます。
■小論文・面接の勉強を始めよう
はじめに、本誌で行なう対策全体の見取り図を説明しておきたいと思います。
入試までの10ヶ月間という短い期間を想定すると、試験勉強に費やすことのできる時間は、最大でも、300日(約43週)×10時間=3,000時間くらいでしょう。そのうち、一次試験の科目(英語、数学、理科2科目、etc.)のために全部の時間の95%は使う必要があるでしょうから、小論文・面接対策の勉強に使える時間は、最大で150時間、週当たり3.5時間程度になると思います。ただし、これは最大時間の想定ですので、多くの受験生にとっては、週に2時間程度の確保が限度であろうと思われます。
以上のような想定に基づき、この誌上講義は、毎週2時間程度の勉強で、確実に合格水準に達することのできる「ミニマム(最小限の)小論文・面接対策」として、計算・計画されています。月1回・全10回の講義をペースメーカーとして、①講義を受けて(読んで)問題を解く(書く)、→②解答例を読み手直しする、→③類題を解く、→④解答例を読み手直しする、の各アクションに、2時間程度の時間を確保してください。どうしても時間がない人は、①と②の繰り返しでも結構です。来年2月の本番の時期までに、多い人で40本、少ない人でも20本の自作解答が出来上がっているはずです。秋の推薦試験・AO入試や編入試験を受ける人でも、10~20本の解答が作成できるはずです。自分で10本以上小論文の解答を作成できれば、相当の実力がついてくるはずです。
■講義の方針
医歯薬学部の二次試験は、出題形式・内容とも実に多様ですが、できるだけ多くの受験生のニーズに応える講義を目指したいと思います。対象者が一部に限られることを説明する場合や、トップ校入試レベル・学士編入レベルの話をする場合には、その旨を予告します。また、すべての受験生に関係する最重要項目については、太字や囲み文字で強調するようにし、無駄のない学習を進められるように工夫してあります。ただし、「どんなことでも吸収してやるぞ」という気構えだけは捨てないで、どの回の講義も一度は目を通すようにしてください。とにかく、みなさんが受験する大学の、どのようなタイプの課題に、どうすれば答えられるようになるかを明確に、確かなメソッドに基づいて解説していきたいと思います。もちろん、常に「ミニマム」を意識して講義を進めます。それでは、頑張っていきましょう。
■面接・小論文試験には多くの誤解がある
講義のはじめに、まず医歯薬学部の小論文・面接試験の実態についてお話ししようと思います。孫子の兵法にも「彼を知り己を知れば百戦危うからず」とあるように、戦いの相手を良く知るのは大切です。みなさん自身も、早い段階から自分の手で志望大学の過去問集を開き、出題形式・出題内容の正確な把握に努めてください。
さて、医歯薬学部の小論文・面接試験は、実に多様です。また、通常の学科試験科目に比べて、情報も少なく教える人材も少ないので、多くの受験生は敵の正体を誤って理解しがちです。書店の受験参考書コーナーには、実に多くの「小論文対策」「面接対策」の本が並ぶようになりましたが、その中のどの本が「あなたの入試」の対策に合っているか、それすらなかなか判別がつかないと思います。英語や数学、理科などの教科試験については、試験問題そのものにも、教科の指導法にも、明治以来の伝統と蓄積があります。一方、小論文試験は、それが大学入試において一般化したのはほんの最近のことであり、たかだか20年強の歴史しかありません。面接試験に至っては、そもそも「過去問集」なるものが存在しないので、的外れな「対策」が多いのが現状です。こういう現状ですから、試験を受ける受験生の側に、(そして指導する側や試験を課す大学側にすら)多くの無理解や誤解が生じているのは、ある意味仕方ないことなのかもしれません。
しかし、合格したい受験生としては、そうは言ってもいられません。乱世を勝ち抜いた武将のように、この混乱した状況をチャンスととらえることにしましょう。ここでは、以下、とくに医歯薬学部の小論文・面接試験にまつわる誤解の一部を取り上げることにより、みなさんが取り組むべき試験の実態を明らかにしたいと思います。実態が掴めれば、チャンスの生かし方も見えてきます。
【誤解その1:面接試験では医師の資質が見られるため、基礎医学や医療問題への広範な知識を持つことが重要になる。】
簡単に言ってしまえば、医学部・歯学部・薬学部などの医療系学部の試験とは、とりもなおさず就職試験なのです。基本的に、医歯薬学部へ入学した者の就職先は、病院(医療機関)か研究所に決まってしまいます。このポイントを意識していない面接対策は、まったく的外れです。医療系大学の面接試験では、「志望動機」が必ず問われますが、これは、医師(医療従事者)としての資質と適性を見るため、ということになっていますし、多くの受験参考書がそのように解説しています。これはある意味正しいけれど、間違ってもいます。本当の理由は、就職面接だからです。入社試験の面接と同じで、入学して6年間なりそれ以上の期間、多忙で厳しい勉強生活を乗り越えられるか、同じ職業に従事する者として共に働ける(co-worker)人材か、もしかしたら部下になる人間として、ストレスなく過ごせる人間だろうか。このようなポイントは、他学部の面接試験においては、全くゼロだとは言えないまでも、ほとんど問題にはなりません。医歯薬学部の面接試験の本質は、co-workerとして仲間に入れていいかどうかを見るというところにあります。したがって、医療問題への広範な知識は、学部に入学してから勉強すればよいものであり、面接試験においては知識量が問題なのではないというのが正しい認識です。
ちなみに、医師(医療従事者)としての資質と適性を見るためという考え方は「ある意味正しいが」と述べましたが、それは、その適性というものが、「医師としての知識」ではなく、co-workerとしての人間性や能力も含むものとして理解される場合には「正しい」という意味なのです。
≪ポイント1:医歯薬学部の面接は「就職面接」であるから、そのための準備が必要である。≫
【誤解その2:小論文試験には、医学の知識が求められる。】
小論文試験についても上と同様の誤解があります。とりわけ多くの国公立大学の二次試験には、資料読解型の小論文試験が課されます。英文による「医事トピック論文」の読解問題が出題される大学も多いので、このような誤解が生じているようです。しかし、このようなタイプの問題で問われているのは、正確な読解能力と資料の分析能力、そして日本語の記述力・表現力です。これらの問題で要求される知識水準は、英文読解や生物などの通常教科の勉強で十分に対応できるものがほとんどです。
【誤解その3:小論文試験には、時事問題・社会問題への幅広い知識と意見が求められる。】
いわゆる「時事ネタ」に関する誤解も多く存在します。たしかに、時事問題への関心は、持っていてよいものですし、推奨できます。しかし、繰り返しになりますが、小論文試験で問われているのは、時事問題の知識そのものではありません。(面接試験でも同様です。)何かを知っているか知らないかではなく、問題の「解き方・答え方」が問われているのです。むしろ、知識の量を増やすことよりも、どうやって解くか、どのように答えるか、を学ぶことに努力をするべきです。
【誤解その4:小論文試験で最も重要なのは、受験生独自の意見と個性である。】
独自の意見とはそもそもどういうものなのでしょうか?あえてハッキリ言ってしまえば、大学入試レベルで求められている小論文の解答に、そもそも独自性など期待されていません。どんな優秀な解答でも、過去の「誰かさん」が既に考えた意見にすぎません。本当の意味での独自性や個性が要求されるのは、大学院の修士論文より上のレベルからです。小論文試験で求められているのは、与えられたテーマから適切な問いを取り出し、自分の問題意識と原理原則に従って、正しい論理で記述する能力です。
【誤解その5:小論文とは、自分の意見を客観的・論理的に述べたものである。】
小論文試験の解答は、受験生「独自(unique)の意見」である必要はありませんが、「自分の意見」である必要はあります。また、意見を「客観的・論理的」に述べることも重要です。しかし、それだけでは、本当は、論文になりません。辞書によれば、論文とは「論議論する文。理義を論じきわめる文。」(広辞苑)です。議論とは、「相手がいる」ということ、理議とは「論理(論のすじみち)」のことです。後段で言っている「論理」が、論文に必須のものであるのは当然ですが、「相手がいる」ということも、論文たるに必要な条件なのです。「相手がいる」というのは、自説を説得させる相手(読み手)がいるということと、対立する立場がありうることの2つを含意します。説得させる相手がいない文章、たとえば日記や伝記的文章は、論理的に記述することは出来ますが論文にはなりません。対立する立場がありえない文章、たとえばラブレターや詩、小説などの散文や説明文なども論文ではありえません。これらは、単なる作文です。
「本当は、論文にならない」と述べたのは、多くの大学では、論文試験と称しながら、「作文試験」を課しているという実態があるからです。これは、出題する大学の意図(作文能力をテストしよう、etc.)と合致しているならともかく、本当は論文試験をしようと思っていたが作文問題を出題してしまった、ということも十分あり得ます。これについては、後にくわしくお話ししますが、自分の受験する大学の「小論文試験」が、「論文試験」なのか、「作文試験」なのか、それ以外なのかについては、予めしっかり見定めておく必要があります。
≪ポイント2:本来の「小論文試験」とは、テーマから適切な問いを取り出し、自分の問題意識と原理原則に従って、対立する意見に向けて説得的なロジックを構成する能力を見るものである。とはいえ、「小論文試験」とあっても、大学によっては単なる「作文試験」であることも多い。≫
■医歯薬学部「2次試験」タイプ分類
さて、ここから医歯薬学部のさまざまな「二次試験」の具体的なありかたを分類し整理してみます。当然ですが、ここでいう「二次試験」とは、センター試験に対する国公立大学などの二次試験という意味ではなく、面接や小論文試験などの「通常の学科試験以外」の試験のことを意味します。以下、同じ意味で使って行きます。
【二次試験の種類】
(1)「面接」試験
① 個人面接試験
② グループ面接試験
③ 集団討論・ディベート試験
(2)「小論文」試験
① 論文試験
② 作文試験
③ 読解力試験(要約問題を含む)
④ 日本語力・常識テスト(漢字の読み書き)
面接試験は、基本的には受験生一人ひとりに対して課される試験ですが、他の何人かの受験生と同時に行われるグループ面接(弘前大、秋田大、群馬大、東京慈恵会医科大、富山大、福井大、信州大、徳島大)や、テーマを与えられてそれについてのスピーチをさせたり(秋田大)、集団討論やディベートを行なう(自治医科大、日本医科大、聖マリアンナ大、横浜市立大、信州大、金沢医科大、滋賀医科大、大阪大、大阪市立大、広島大、香川大、長崎大)場合もあります。また、個人面接が2回から3回行われる(千葉大、日本大、聖マリアンナ大、北里大、慶応義塾大、山梨大、山口大、佐賀大)場合もあります。時間も5分から20分、グループでの試験の場合は、1時間近くかかる場合もあります。最近廃止されたが、保護者同伴の面接試験(順天堂大)というのもありました。(いずれの括弧内も医学部の場合です。)
ディベートや討論試験を課す場合は、それによって言葉の運用能力や対人能力、協調性を見ていると考えるべきですが、小論文のトレーニングを行うことで、対策を兼ねることができます。また、集団討論が課されていても、別途個人面接も行われる場合がほとんどです。個人面接対策については、それと密接な関係がある志願書の書き方と合わせて、夏期(8月号or9月号)でくわしく講義する予定です。
「小論文試験」は、厳密な意味での論文試験(①)と、作文試験(②)、読解力試験(③)に分類されます。たんなる常識テストのようなもの(④)もあります。日本語の読解力と最小限の常識・教養は、作文ができる条件でもありますので、それらが試験に課される意図は理解できますが、さすがに③④を「小論文」試験と呼ぶのは不自然ですね。「作文」(②)能力は論文を書く能力の前提であるので、そのための準備は大切ですが、その準備だけでは「論文」(①)対策とはなりません。この点は、次回以降、実際の問題を扱いながらくわしく説明していきます。
【小論文試験の出題形式】
(1)テーマ提示型(テーマが提示され、それについて自由に論じる形式)
(2)課題文読解型(課題文を読んで、それについての問題に答える形式)
(3)資料分析型(グラフや統計資料の分析をおこない、それについて論じる形式)
(4)イメージ型(絵や写真を分析し、考えたことを述べさせる形式)
小論文の出題形式は、上記の4パターンのいずれかに分類されます。課題文や資料が英文であることも(とくに国公立大学で)多くあります。いずれのパターンにおいても、与えられた課題から問題を適切に抽出して、(場合によっては分析を加え)それについて自分の論を展開するという解答方法はどれも同じです。しかし、それぞれに異なった形式に慣れておくことも重要ですので、志望大学・学部の出題形式については、かならず早期に過去問を調べておいてください。
【テーマ・出題分野】
(1)医療倫理・生命倫理に関する分野
(2)医療問題・医療制度に関する分野
(3)科学論、自然科学の基本知識に関する分野
(4)環境・情報化・高齢化など学際的分野
(5)時事・社会問題や身近なテーマ
(6)自分のこと、大学への志望理由など
小論文試験や集団討論試験で出題されるテーマを分野ごとに分けると、大きく6種類くらいに整理できます。(6)番目は、個人面接で必ず問われるテーマです。「医系小論文」といえば、(1)と(2)のテーマと思っている人が多いですし、受験参考書なども、扱っているほとんどのテーマが(1)と(2)に偏っています。しかし、意外とほかのテーマの出題も多く、医療分野とそれ以外の分野の割合は、おおざっぱにいえば半々だと言ってよいと思います。(1)~(5)までの各テーマ・分野とも、さまざまな参考書や問題集によって、解説や模範解答が作成されていますが、先に述べた小論文試験指導の歴史の浅さに起因する「底の浅さ」が見られるものも多くありますので、参考書選びにおいては十分注意してください。
これらのテーマごとの対策については、来月号以降、詳細に解説を行なっていきますが、ここでは、テーマごとの勉強と執筆練習を行うにあたって、かならず押さえてほしいポイントを述べておきます。
いずれのテーマも、そのテーマを扱う(いくつかの)学問分野があり、それらの分野ごとの正統的な学問的アプローチがあります。(1)については倫理学、(2)については経済学や法律学、(3)については科学哲学や生物学など、(4)(5)については、社会学や政治学などが専門的に扱っており、それぞれにおいて主流の意見や立場が存在します。多くの受験生が手にする受験用の「小論文参考書」は、それぞれの学問で行われてきた研究成果について、全く無関心・無関係な“解説”を行っているものも少なからずあります。それだけでなく、それぞれの学問に全く無知な説明を「小論文のネタ」として売っているものさえあります。テーマを学習するにあたって重要なのは、そのテーマに関する主流の学問的「原理」(principle)と「方法」(method)を理解しておくことです。学問的と言っても、そんなに難しく考える必要はなく、ごくごく基本的なもので十分です。小論文は、日本語論文の形式に慣れ、ネタを仕入れること以上に、「原理」と「方法」を理解することが重要で、時間をかけるべきところです。
「原理」とは、数学でいえば公式のようなものです。「方法」とは、問題への正統的なアプローチ(解法)のことを言います。小論文の問題で出題されるテーマの多くには、世界中の学者や実務家が本気で考えてきた、思考の蓄積があります。そのエッセンスを学び理解すること、とくに、医学部などの理科系の学科試験で問うことのできない「人文社会系」の教養のポイントを勉強し理解しておくこと、これはとても重要です。ただし、これらのポイントは、じつは、それほど多くありません。早めの準備があれば大丈夫ですので、安心して取り組んでください。「慌てずに急げ」です。
≪ポイント3:小論文対策のテーマ学習で時間をかけるべきは、「原理」の理解と、問題への正統的なアプローチの「方法」の習得である。≫
■スケジュールと講義方針
今回は医歯薬学部小論文試験・面接試験全体の見取り図を解説しました。次回からは、実際の問題を使って、出題形式別・テーマ別のアプローチを紹介しながら、論文・議論のルールと技術を100のポイントに絞って講義していきます。以下、みなさんが学習計画を立てやすいように、年間の講義スケジュールと講義方針について述べておきたいと思います。
来月号より9月号までが「前期」で、おもにテーマごとの学習を行ないます。生命倫理学の基礎、死刑制度の是非、尊厳死の問題、告知の問題などを扱いながら、「自由主義」、「正義論」、「厚生経済学」などの基本的立場の説明と、議論をつくる方法(概念分析、推論の技術、背理法・消去法などの批判の技術)を解説します。秋の推薦入試・AO入試に対応できるように、前期の最後に「面接対策と志願書の書き方」を講義します。10月号から2月号までは、テーマ問題の解説も引き続き行ないながら、おもに出題形式別・大学別の問題演習に重点を移していきます。入試直前期には、最重要項目についての最終チェックも行います。
講義の方針として、できるだけ過去問データに目を配りながら、簡潔・明瞭に、原理原則と方法論の解説を行ない、紙上とウェブ上の両方で解答例を用意します。専門用語や人物名については説明を付し、情報の出所についても、できる限り明らかにしておきたいと思います。更なる勉強をする余裕のある受験生やトップ校を目指す諸君のために、毎回、扱ったテーマにかかわる推奨文献と読むべき箇所をリストアップします。
「出典」と、「理論」は、すべて一流の論者ものからに限られます。あまたの関連書籍・研究書・参考書の中から、信頼に足るものだけを選び出してあります。その選定は、忙しい受験生一人ひとりには到底できない作業を代行するものであると自負しています。さしあたり、合格して大学に入学するまでは、私の講義を信じて勉強してください。(さしあたりというのは、大学入学後の研究においては、受け入れた考えを乗り越えることが必要かもしれないということです。)
渋谷の「伊藤塾」という司法試験予備校の塾長である伊藤真先生は、「学問には王道はないが、勉強には王道がある」と言っています。ゴールが定まっているからです。過去問を調べ、論点をつぶし、予想をたてる。この一連の作業を地道に続けた者が勝利者になります。勉強の王道を歩き始めてください。
---
■ブックリスト
・医歯薬学部の面接対策としては、大学生用の就職面接対策本がもっとも実用的で役に立つ。志願書の作成においても同様で、就職試験用の「エントリーシートの書き方」などが最も役に立つ。中谷彰宏『面接の達人』シリーズ(ダイヤモンド社)。
・本来の意味での「論文」とは何かについては、野矢茂樹『論理トレーニング』(産業図書)の第Ⅳ部を参照。議論を展開する方法については、野矢の同書のほか、以下のものが役に立つ。伊勢田哲治『哲学思考トレーニング』(ちくま新書)、トニー・ホープ『医療倫理』(岩波書店)、N・ウォーバートン『思考の道具箱-クリティカル・シンキング入門』(晃洋書房)。
・日本語の最低限の教養は、山本・佐々木『日本語再入門①知識編』(日栄社)で勉強するとよい。聖マリアンナ医科大学などの試験にも効果あり。
・『伊藤真の結果をすぐ出す超思考法』(大和書房)は、受験生活全般の指針ともなるよい本だ。
----
※ 連載終了後、PDFファイルをこちらからダウンロードできるようになります。
※ 医歯薬進学のバックナンバーをお求め頂けます。玄文社、 または、当社サイトでも販売しておりま す。
-----
医学部受験専門予備校
エコール麹町メディカル 原田広幸の誌上講義
「「わかる!使える!小論文・面接のルールと技術100」
◆ 今回の講義の主な対象者:医歯薬学部受験者全員(推薦・AO・一般・編入)【共通】
こんにちは、エコール麹町メディカルの原田です。今月号より入試直前期まで、医歯薬学部入試のための「二次試験ミニマム対策」を連載します。どうぞよろしくお願いいたします。
さて、医学部等の二次試験においては、小論文試験と面接が課される大学がほとんどですが、その中身は多岐にわたります。多くの受験生にとっては、センター試験や学科試験の勉強だけで精いっぱい、小論文や面接の対策などやっている暇などないというのが実情でしょう。あるいは、あまりに多様で傾向の読めない二次試験の対策など、そもそもやっても意味がないと、最初から勉強を放棄している受験生さえいるかもしれません。
しかし、多くの大学の試験において、二次試験の成績は極めて重視されています。また、準備・対策を行なった受験生と、行なっていない受験生の間で大きな差が出てきてしまうのも事実です。ですから、十分な余裕を持って準備を行なうことはきわめて重要です。私の指導経験からいえば、半年の対策期間があれば十分な効果が得られます。
■小論文・面接の勉強を始めよう
はじめに、本誌で行なう対策全体の見取り図を説明しておきたいと思います。
入試までの10ヶ月間という短い期間を想定すると、試験勉強に費やすことのできる時間は、最大でも、300日(約43週)×10時間=3,000時間くらいでしょう。そのうち、一次試験の科目(英語、数学、理科2科目、etc.)のために全部の時間の95%は使う必要があるでしょうから、小論文・面接対策の勉強に使える時間は、最大で150時間、週当たり3.5時間程度になると思います。ただし、これは最大時間の想定ですので、多くの受験生にとっては、週に2時間程度の確保が限度であろうと思われます。
以上のような想定に基づき、この誌上講義は、毎週2時間程度の勉強で、確実に合格水準に達することのできる「ミニマム(最小限の)小論文・面接対策」として、計算・計画されています。月1回・全10回の講義をペースメーカーとして、①講義を受けて(読んで)問題を解く(書く)、→②解答例を読み手直しする、→③類題を解く、→④解答例を読み手直しする、の各アクションに、2時間程度の時間を確保してください。どうしても時間がない人は、①と②の繰り返しでも結構です。来年2月の本番の時期までに、多い人で40本、少ない人でも20本の自作解答が出来上がっているはずです。秋の推薦試験・AO入試や編入試験を受ける人でも、10~20本の解答が作成できるはずです。自分で10本以上小論文の解答を作成できれば、相当の実力がついてくるはずです。
■講義の方針
医歯薬学部の二次試験は、出題形式・内容とも実に多様ですが、できるだけ多くの受験生のニーズに応える講義を目指したいと思います。対象者が一部に限られることを説明する場合や、トップ校入試レベル・学士編入レベルの話をする場合には、その旨を予告します。また、すべての受験生に関係する最重要項目については、太字や囲み文字で強調するようにし、無駄のない学習を進められるように工夫してあります。ただし、「どんなことでも吸収してやるぞ」という気構えだけは捨てないで、どの回の講義も一度は目を通すようにしてください。とにかく、みなさんが受験する大学の、どのようなタイプの課題に、どうすれば答えられるようになるかを明確に、確かなメソッドに基づいて解説していきたいと思います。もちろん、常に「ミニマム」を意識して講義を進めます。それでは、頑張っていきましょう。
■面接・小論文試験には多くの誤解がある
講義のはじめに、まず医歯薬学部の小論文・面接試験の実態についてお話ししようと思います。孫子の兵法にも「彼を知り己を知れば百戦危うからず」とあるように、戦いの相手を良く知るのは大切です。みなさん自身も、早い段階から自分の手で志望大学の過去問集を開き、出題形式・出題内容の正確な把握に努めてください。
さて、医歯薬学部の小論文・面接試験は、実に多様です。また、通常の学科試験科目に比べて、情報も少なく教える人材も少ないので、多くの受験生は敵の正体を誤って理解しがちです。書店の受験参考書コーナーには、実に多くの「小論文対策」「面接対策」の本が並ぶようになりましたが、その中のどの本が「あなたの入試」の対策に合っているか、それすらなかなか判別がつかないと思います。英語や数学、理科などの教科試験については、試験問題そのものにも、教科の指導法にも、明治以来の伝統と蓄積があります。一方、小論文試験は、それが大学入試において一般化したのはほんの最近のことであり、たかだか20年強の歴史しかありません。面接試験に至っては、そもそも「過去問集」なるものが存在しないので、的外れな「対策」が多いのが現状です。こういう現状ですから、試験を受ける受験生の側に、(そして指導する側や試験を課す大学側にすら)多くの無理解や誤解が生じているのは、ある意味仕方ないことなのかもしれません。
しかし、合格したい受験生としては、そうは言ってもいられません。乱世を勝ち抜いた武将のように、この混乱した状況をチャンスととらえることにしましょう。ここでは、以下、とくに医歯薬学部の小論文・面接試験にまつわる誤解の一部を取り上げることにより、みなさんが取り組むべき試験の実態を明らかにしたいと思います。実態が掴めれば、チャンスの生かし方も見えてきます。
【誤解その1:面接試験では医師の資質が見られるため、基礎医学や医療問題への広範な知識を持つことが重要になる。】
簡単に言ってしまえば、医学部・歯学部・薬学部などの医療系学部の試験とは、とりもなおさず就職試験なのです。基本的に、医歯薬学部へ入学した者の就職先は、病院(医療機関)か研究所に決まってしまいます。このポイントを意識していない面接対策は、まったく的外れです。医療系大学の面接試験では、「志望動機」が必ず問われますが、これは、医師(医療従事者)としての資質と適性を見るため、ということになっていますし、多くの受験参考書がそのように解説しています。これはある意味正しいけれど、間違ってもいます。本当の理由は、就職面接だからです。入社試験の面接と同じで、入学して6年間なりそれ以上の期間、多忙で厳しい勉強生活を乗り越えられるか、同じ職業に従事する者として共に働ける(co-worker)人材か、もしかしたら部下になる人間として、ストレスなく過ごせる人間だろうか。このようなポイントは、他学部の面接試験においては、全くゼロだとは言えないまでも、ほとんど問題にはなりません。医歯薬学部の面接試験の本質は、co-workerとして仲間に入れていいかどうかを見るというところにあります。したがって、医療問題への広範な知識は、学部に入学してから勉強すればよいものであり、面接試験においては知識量が問題なのではないというのが正しい認識です。
ちなみに、医師(医療従事者)としての資質と適性を見るためという考え方は「ある意味正しいが」と述べましたが、それは、その適性というものが、「医師としての知識」ではなく、co-workerとしての人間性や能力も含むものとして理解される場合には「正しい」という意味なのです。
≪ポイント1:医歯薬学部の面接は「就職面接」であるから、そのための準備が必要である。≫
【誤解その2:小論文試験には、医学の知識が求められる。】
小論文試験についても上と同様の誤解があります。とりわけ多くの国公立大学の二次試験には、資料読解型の小論文試験が課されます。英文による「医事トピック論文」の読解問題が出題される大学も多いので、このような誤解が生じているようです。しかし、このようなタイプの問題で問われているのは、正確な読解能力と資料の分析能力、そして日本語の記述力・表現力です。これらの問題で要求される知識水準は、英文読解や生物などの通常教科の勉強で十分に対応できるものがほとんどです。
【誤解その3:小論文試験には、時事問題・社会問題への幅広い知識と意見が求められる。】
いわゆる「時事ネタ」に関する誤解も多く存在します。たしかに、時事問題への関心は、持っていてよいものですし、推奨できます。しかし、繰り返しになりますが、小論文試験で問われているのは、時事問題の知識そのものではありません。(面接試験でも同様です。)何かを知っているか知らないかではなく、問題の「解き方・答え方」が問われているのです。むしろ、知識の量を増やすことよりも、どうやって解くか、どのように答えるか、を学ぶことに努力をするべきです。
【誤解その4:小論文試験で最も重要なのは、受験生独自の意見と個性である。】
独自の意見とはそもそもどういうものなのでしょうか?あえてハッキリ言ってしまえば、大学入試レベルで求められている小論文の解答に、そもそも独自性など期待されていません。どんな優秀な解答でも、過去の「誰かさん」が既に考えた意見にすぎません。本当の意味での独自性や個性が要求されるのは、大学院の修士論文より上のレベルからです。小論文試験で求められているのは、与えられたテーマから適切な問いを取り出し、自分の問題意識と原理原則に従って、正しい論理で記述する能力です。
【誤解その5:小論文とは、自分の意見を客観的・論理的に述べたものである。】
小論文試験の解答は、受験生「独自(unique)の意見」である必要はありませんが、「自分の意見」である必要はあります。また、意見を「客観的・論理的」に述べることも重要です。しかし、それだけでは、本当は、論文になりません。辞書によれば、論文とは「論議論する文。理義を論じきわめる文。」(広辞苑)です。議論とは、「相手がいる」ということ、理議とは「論理(論のすじみち)」のことです。後段で言っている「論理」が、論文に必須のものであるのは当然ですが、「相手がいる」ということも、論文たるに必要な条件なのです。「相手がいる」というのは、自説を説得させる相手(読み手)がいるということと、対立する立場がありうることの2つを含意します。説得させる相手がいない文章、たとえば日記や伝記的文章は、論理的に記述することは出来ますが論文にはなりません。対立する立場がありえない文章、たとえばラブレターや詩、小説などの散文や説明文なども論文ではありえません。これらは、単なる作文です。
「本当は、論文にならない」と述べたのは、多くの大学では、論文試験と称しながら、「作文試験」を課しているという実態があるからです。これは、出題する大学の意図(作文能力をテストしよう、etc.)と合致しているならともかく、本当は論文試験をしようと思っていたが作文問題を出題してしまった、ということも十分あり得ます。これについては、後にくわしくお話ししますが、自分の受験する大学の「小論文試験」が、「論文試験」なのか、「作文試験」なのか、それ以外なのかについては、予めしっかり見定めておく必要があります。
≪ポイント2:本来の「小論文試験」とは、テーマから適切な問いを取り出し、自分の問題意識と原理原則に従って、対立する意見に向けて説得的なロジックを構成する能力を見るものである。とはいえ、「小論文試験」とあっても、大学によっては単なる「作文試験」であることも多い。≫
■医歯薬学部「2次試験」タイプ分類
さて、ここから医歯薬学部のさまざまな「二次試験」の具体的なありかたを分類し整理してみます。当然ですが、ここでいう「二次試験」とは、センター試験に対する国公立大学などの二次試験という意味ではなく、面接や小論文試験などの「通常の学科試験以外」の試験のことを意味します。以下、同じ意味で使って行きます。
【二次試験の種類】
(1)「面接」試験
① 個人面接試験
② グループ面接試験
③ 集団討論・ディベート試験
(2)「小論文」試験
① 論文試験
② 作文試験
③ 読解力試験(要約問題を含む)
④ 日本語力・常識テスト(漢字の読み書き)
面接試験は、基本的には受験生一人ひとりに対して課される試験ですが、他の何人かの受験生と同時に行われるグループ面接(弘前大、秋田大、群馬大、東京慈恵会医科大、富山大、福井大、信州大、徳島大)や、テーマを与えられてそれについてのスピーチをさせたり(秋田大)、集団討論やディベートを行なう(自治医科大、日本医科大、聖マリアンナ大、横浜市立大、信州大、金沢医科大、滋賀医科大、大阪大、大阪市立大、広島大、香川大、長崎大)場合もあります。また、個人面接が2回から3回行われる(千葉大、日本大、聖マリアンナ大、北里大、慶応義塾大、山梨大、山口大、佐賀大)場合もあります。時間も5分から20分、グループでの試験の場合は、1時間近くかかる場合もあります。最近廃止されたが、保護者同伴の面接試験(順天堂大)というのもありました。(いずれの括弧内も医学部の場合です。)
ディベートや討論試験を課す場合は、それによって言葉の運用能力や対人能力、協調性を見ていると考えるべきですが、小論文のトレーニングを行うことで、対策を兼ねることができます。また、集団討論が課されていても、別途個人面接も行われる場合がほとんどです。個人面接対策については、それと密接な関係がある志願書の書き方と合わせて、夏期(8月号or9月号)でくわしく講義する予定です。
「小論文試験」は、厳密な意味での論文試験(①)と、作文試験(②)、読解力試験(③)に分類されます。たんなる常識テストのようなもの(④)もあります。日本語の読解力と最小限の常識・教養は、作文ができる条件でもありますので、それらが試験に課される意図は理解できますが、さすがに③④を「小論文」試験と呼ぶのは不自然ですね。「作文」(②)能力は論文を書く能力の前提であるので、そのための準備は大切ですが、その準備だけでは「論文」(①)対策とはなりません。この点は、次回以降、実際の問題を扱いながらくわしく説明していきます。
【小論文試験の出題形式】
(1)テーマ提示型(テーマが提示され、それについて自由に論じる形式)
(2)課題文読解型(課題文を読んで、それについての問題に答える形式)
(3)資料分析型(グラフや統計資料の分析をおこない、それについて論じる形式)
(4)イメージ型(絵や写真を分析し、考えたことを述べさせる形式)
小論文の出題形式は、上記の4パターンのいずれかに分類されます。課題文や資料が英文であることも(とくに国公立大学で)多くあります。いずれのパターンにおいても、与えられた課題から問題を適切に抽出して、(場合によっては分析を加え)それについて自分の論を展開するという解答方法はどれも同じです。しかし、それぞれに異なった形式に慣れておくことも重要ですので、志望大学・学部の出題形式については、かならず早期に過去問を調べておいてください。
【テーマ・出題分野】
(1)医療倫理・生命倫理に関する分野
(2)医療問題・医療制度に関する分野
(3)科学論、自然科学の基本知識に関する分野
(4)環境・情報化・高齢化など学際的分野
(5)時事・社会問題や身近なテーマ
(6)自分のこと、大学への志望理由など
小論文試験や集団討論試験で出題されるテーマを分野ごとに分けると、大きく6種類くらいに整理できます。(6)番目は、個人面接で必ず問われるテーマです。「医系小論文」といえば、(1)と(2)のテーマと思っている人が多いですし、受験参考書なども、扱っているほとんどのテーマが(1)と(2)に偏っています。しかし、意外とほかのテーマの出題も多く、医療分野とそれ以外の分野の割合は、おおざっぱにいえば半々だと言ってよいと思います。(1)~(5)までの各テーマ・分野とも、さまざまな参考書や問題集によって、解説や模範解答が作成されていますが、先に述べた小論文試験指導の歴史の浅さに起因する「底の浅さ」が見られるものも多くありますので、参考書選びにおいては十分注意してください。
これらのテーマごとの対策については、来月号以降、詳細に解説を行なっていきますが、ここでは、テーマごとの勉強と執筆練習を行うにあたって、かならず押さえてほしいポイントを述べておきます。
いずれのテーマも、そのテーマを扱う(いくつかの)学問分野があり、それらの分野ごとの正統的な学問的アプローチがあります。(1)については倫理学、(2)については経済学や法律学、(3)については科学哲学や生物学など、(4)(5)については、社会学や政治学などが専門的に扱っており、それぞれにおいて主流の意見や立場が存在します。多くの受験生が手にする受験用の「小論文参考書」は、それぞれの学問で行われてきた研究成果について、全く無関心・無関係な“解説”を行っているものも少なからずあります。それだけでなく、それぞれの学問に全く無知な説明を「小論文のネタ」として売っているものさえあります。テーマを学習するにあたって重要なのは、そのテーマに関する主流の学問的「原理」(principle)と「方法」(method)を理解しておくことです。学問的と言っても、そんなに難しく考える必要はなく、ごくごく基本的なもので十分です。小論文は、日本語論文の形式に慣れ、ネタを仕入れること以上に、「原理」と「方法」を理解することが重要で、時間をかけるべきところです。
「原理」とは、数学でいえば公式のようなものです。「方法」とは、問題への正統的なアプローチ(解法)のことを言います。小論文の問題で出題されるテーマの多くには、世界中の学者や実務家が本気で考えてきた、思考の蓄積があります。そのエッセンスを学び理解すること、とくに、医学部などの理科系の学科試験で問うことのできない「人文社会系」の教養のポイントを勉強し理解しておくこと、これはとても重要です。ただし、これらのポイントは、じつは、それほど多くありません。早めの準備があれば大丈夫ですので、安心して取り組んでください。「慌てずに急げ」です。
≪ポイント3:小論文対策のテーマ学習で時間をかけるべきは、「原理」の理解と、問題への正統的なアプローチの「方法」の習得である。≫
■スケジュールと講義方針
今回は医歯薬学部小論文試験・面接試験全体の見取り図を解説しました。次回からは、実際の問題を使って、出題形式別・テーマ別のアプローチを紹介しながら、論文・議論のルールと技術を100のポイントに絞って講義していきます。以下、みなさんが学習計画を立てやすいように、年間の講義スケジュールと講義方針について述べておきたいと思います。
来月号より9月号までが「前期」で、おもにテーマごとの学習を行ないます。生命倫理学の基礎、死刑制度の是非、尊厳死の問題、告知の問題などを扱いながら、「自由主義」、「正義論」、「厚生経済学」などの基本的立場の説明と、議論をつくる方法(概念分析、推論の技術、背理法・消去法などの批判の技術)を解説します。秋の推薦入試・AO入試に対応できるように、前期の最後に「面接対策と志願書の書き方」を講義します。10月号から2月号までは、テーマ問題の解説も引き続き行ないながら、おもに出題形式別・大学別の問題演習に重点を移していきます。入試直前期には、最重要項目についての最終チェックも行います。
講義の方針として、できるだけ過去問データに目を配りながら、簡潔・明瞭に、原理原則と方法論の解説を行ない、紙上とウェブ上の両方で解答例を用意します。専門用語や人物名については説明を付し、情報の出所についても、できる限り明らかにしておきたいと思います。更なる勉強をする余裕のある受験生やトップ校を目指す諸君のために、毎回、扱ったテーマにかかわる推奨文献と読むべき箇所をリストアップします。
「出典」と、「理論」は、すべて一流の論者ものからに限られます。あまたの関連書籍・研究書・参考書の中から、信頼に足るものだけを選び出してあります。その選定は、忙しい受験生一人ひとりには到底できない作業を代行するものであると自負しています。さしあたり、合格して大学に入学するまでは、私の講義を信じて勉強してください。(さしあたりというのは、大学入学後の研究においては、受け入れた考えを乗り越えることが必要かもしれないということです。)
渋谷の「伊藤塾」という司法試験予備校の塾長である伊藤真先生は、「学問には王道はないが、勉強には王道がある」と言っています。ゴールが定まっているからです。過去問を調べ、論点をつぶし、予想をたてる。この一連の作業を地道に続けた者が勝利者になります。勉強の王道を歩き始めてください。
---
■ブックリスト
・医歯薬学部の面接対策としては、大学生用の就職面接対策本がもっとも実用的で役に立つ。志願書の作成においても同様で、就職試験用の「エントリーシートの書き方」などが最も役に立つ。中谷彰宏『面接の達人』シリーズ(ダイヤモンド社)。
・本来の意味での「論文」とは何かについては、野矢茂樹『論理トレーニング』(産業図書)の第Ⅳ部を参照。議論を展開する方法については、野矢の同書のほか、以下のものが役に立つ。伊勢田哲治『哲学思考トレーニング』(ちくま新書)、トニー・ホープ『医療倫理』(岩波書店)、N・ウォーバートン『思考の道具箱-クリティカル・シンキング入門』(晃洋書房)。
・日本語の最低限の教養は、山本・佐々木『日本語再入門①知識編』(日栄社)で勉強するとよい。聖マリアンナ医科大学などの試験にも効果あり。
・『伊藤真の結果をすぐ出す超思考法』(大和書房)は、受験生活全般の指針ともなるよい本だ。
----
※ 連載終了後、PDFファイルをこちらからダウンロードできるようになります。
※ 医歯薬進学のバックナンバーをお求め頂けます。玄文社、 または、当社サイトでも販売しておりま す。
-----
医学部受験専門予備校
エコール麹町メディカル 原田広幸の誌上講義
「「わかる!使える!小論文・面接のルールと技術100」
このサイトについて
本講座は,玄文社刊 『月刊 医歯薬進学』に掲載されている,“エコール麹町メディカル 原田広幸の誌上講義 「わかる!使える! 小論文・面接のルールと技術100」”のWeb特別講義版です。
誌上講義で掲載できなかった,解答案,別解,練習問題,用語解説や特別講義などを公表しています。
『月刊 医歯薬進学』に掲載された誌上講義については,バックナンバーをご購入ください。
------------
誌上講義で掲載できなかった,解答案,別解,練習問題,用語解説や特別講義などを公表しています。
『月刊 医歯薬進学』に掲載された誌上講義については,バックナンバーをご購入ください。
- 2010年4月号 (2010/3/12発売)
- 2010年5月号(2010/4 /12発売)
- 2010年6月号(2010/5 /12発売)
- 2010年7月号(2010/6 /12発売)
- 2010年8月号(2010/7 /12発売)
- 2010年9月号(2010/8 /12発売)
- 2010年10月号(2010/9 /12発売)
- 2010年11月号 (2010/10/12発売)
- 2010年12月号 (2010/11/12発売)
- 2011年1月号(2010/12 /12発売)
- 2011年2月号(2011/1/12発売)
- 2011年3月号(2011/2/12発売)
------------
原田 広幸 HARADA Hiroyuki
エコール麹町メディカル 塾長・文科本部長
小論文講座、倫理講座、英語講座担当
栃木県生まれ。県立真岡高校、東京外国語大学外国語学部ロシヤ東欧語学科(ロシヤ語専攻)、中央大学法学部法律学科中退、東京工業 大学大学院社会理工学研究科価値システム専攻修了。大手都市銀行グループ、投資顧問、短期大学勤務を経て、東京大学大学院総合文科研究科中退。株式会社麹 町メディカル設立。
学生時代より大学受験指導に携わり、さまざまなカリキュラム・教材開発を行なう。アカデミズムの世界へ復帰すると同時に本格的に医 受験指導に就き、都内医系予備校で英語科講師、小論文科主任講師を歴任。趣味は本を読むこと・集めること、楽器(ドラム)を演奏すること・集めること。 ジャズと哲学をこよなく愛する。
-----
医学部受験専門予備校
エコール麹町メディカル 原田広幸の誌上講義
「「わかる!使える!小論文・面接のルール と技術100」
-----
医学部受験専門予備校
エコール麹町メディカル 原田広幸の誌上講義
「「わかる!使える!小論文・面接のルール と技術100」
登録:
投稿 (Atom)

